「空気を変えられる選手になりたい──」
山本優香、仲間をつなぐ明るさと一歩を踏み出す勇気
聞き手:スタッフ・青木 / 話し手:山本 優香(Yuka Yamamoto)選手

ウイングスパイカーとしてコートを駆ける山本優香。大学で教育を学びながら、日々の練習と試合に全力で向き合い、コートの内外で仲間との関係を築いてきた。華やかさとストイックさを兼ね備え、誰とでもすぐに打ち解ける明るさで、チームの雰囲気をパッと明るくしてくれる存在。スタッフの間でもその人懐っこさはよく知られており、試合の合間や移動中にも周囲に自然と笑いを生む。
そんな彼女が、バレーボールというスポーツを通して見つめ続けている“自分らしさの軸”とは、どのようなものなのか、お話を聞かせてもらいました。
■「あのスパイクに憧れて」──すべては中学の部活見学から始まった
青木:では、インタビューのはじめに伺います。中学時代、初めてバレーに惹かれた瞬間って、どんな出来事だったんですか?
山本:そうなんです。部活見学って、普通はなんとなく見てまわる感じじゃないですか。でもその日は違ってて、体育館で先輩がスパイクを決めた瞬間、空気が一変して。その一打が自分の中で響いたというか、「やってみたい」じゃなくて「やるしかない!」って感じでした。
青木:そのときの空気、鮮明に覚えてるんですね。
山本:はい。今でもあの音、あの緊張感、全部覚えてます。バレーって、あんなふうに一瞬で人の心を動かせるんだって、初めて知った瞬間でした。
青木:それまでのご自身は、どちらかというと個人で動くことの方が多かったんですか?
山本:そうですね。小学生のときはずっとK-POPダンスやってて、ステージに立つこともありました。だから身体を動かすのは好きだったけど、チームでなにかをするっていうのは、バレーが初めてでした。
青木:そこから“チームスポーツ”にどんどん惹かれていった感じですか?
山本:最初はもうスパイク一択。「強く打てたら正義」みたいなノリでした。でもだんだん、レシーブとかトスの重みがわかってきて、「この一本のために、いろんな人が動いてくれてるんだ」って。気づいたら、プレーがすごく立体的に感じられるようになってました。
青木:なるほど。その“一本”の意味が変わったことで、バレーへの向き合い方も変わったんですね。
山本:はい。点を取ること以上に、「今この場面でこの1点を取る意味」みたいなものが見えるようになった気がします。そこから、「空気を変えるプレー」が自分の中でもキーワードになっていきました。

■「壁を越えた先に見えたもの」──高校時代の苦しさと気づき
青木:中学から高校へ進む中で、プレースタイルや考え方に変化はありましたか?
山本:ありました。中学までは勢いで何とかなる部分もあったんですけど、高校では「通用しない」ことが一気に増えて、初めて「やめたいかも」と思うほど悩みました。でも、そんなときにポジション争いしてた子とふたりで自主練して、言い合いもしたけど最後は「一緒に強くなろう」って心から思えたんです。それが転機でした。
青木:競争の中に、信頼も生まれたんですね。
山本:はい。最初はその子のことをライバルっていうよりも“負けたくない対象”として見ていたけど、同じ練習を繰り返すうちに、気づけば一番気持ちを共有できる存在になってました。
青木:その経験は、今のチームにも生きていますか?
山本:すごく生きてます。誰かと本気でぶつかることって、怖いけど、信頼を築く一番の近道だと思います。今もチームでプレーが噛み合わなかったとき、あの頃みたいに腹を割って話すようにしています。
青木:やっぱり“ぶつかる勇気”って大事なんですね。
山本:はい、うやむやにせずに本音を出せる関係って、プレーにも確実に現れるので。ミスしても支え合える関係性があると、挑戦する勇気も湧いてきます。
■ 「学びと実戦、どちらもリアル」──大学とチームの両立
青木:大学とチームの両立って、やっぱり大変ですよね。時間的にも体力的にもハードじゃないですか?
山本:そうですね。正直、睡眠時間が削れる日もあります(笑)。でも、大学で教育を学んでいるからこそ気づけたこともたくさんあって。たとえば“伝える”という行為の奥深さです。バレーでも後輩にアドバイスするとき、相手の理解度や今の気持ちを想像しながら言葉を選ぶようになりました。
青木:授業の中で得た知見が、そのままチーム内のコミュニケーションに活きてるんですね。
山本:はい。「教える」って、“わかってもらうこと”じゃなくて“気づいてもらうこと”なんだなって思うようになって。だから、ただ「こうして」じゃなくて、「こうしたらどう感じる?」って聞き返すようになったりして。そうすると相手の反応も変わってくるんです。
青木:逆に、チームでの経験が大学の授業に還元されることもありますか?
山本:あります。プレーの中で空気を読むとか、瞬時に判断するとか、そういう感覚って授業の発表やグループワークでもけっこう役立ちます。たとえば、誰が今話したそうか、とか、どこで自分が支えるべきか、とか。
青木:人の気配を読む力って、どちらの現場でも求められるんですね。
山本:そう思います。あと、バレーでは自分の調子が悪いときにどう立て直すかって大事じゃないですか。それって学業でも一緒で、「今日は集中できないな」ってときに無理に詰め込むんじゃなくて、どう自分を整えるかを考えるようになりました。
青木:両立って、ただ“こなす”ってことじゃないんですね。
山本:はい。最初は「どっちも全力」って張り詰めてたんですけど、今は「どっちにも活きる」って感覚のほうが強いです。学びと実戦を行ったり来たりすることで、どっちの自分も深まっていく気がします。
■「あの1点が変えた流れ」──グリフィンズでの試合と複数の仲間との信頼
青木:チームに入ってすぐの印象に残る試合はありますか?
山本:「初めてスタメンで出た試合」が今でも鮮明に残っています。序盤は自分のミスが続いて流れに乗れなかったんですが、2セット目中盤でクロスに打ち抜いたスパイクが決まり、明らかに空気が変わった瞬間がありました。
青木:それでチーム全体が動き始めたんですね。
山本:はい。まりな(長谷川まりな選手)がすぐ「よく決めたね!」って笑顔で言ってくれて、その声がまるで合図のようで安心感になりました。大学の授業でも同級生だし、心がほっとしましたね。
青木:具体的にどんなサポートがあったのでしょうか?
山本:美咲さん(川端美咲選手)が、「次はもっと意図分かってるから任せて」って言ってくれて。あの言葉があったからスパイクも思い切れたんです。
青木:頼もしい存在ですね。
山本:それに、栞さん(大西栞選手)も、「落ち着いて、見るから」ってボールを拾ってくれる瞬間が多くて、チームに“私を信じてくれてる”って感じられる空気がありました。
青木:信頼の循環が自然と起きているんですね。
山本:そうなんです。まりなのあの一言、美咲さんのサポート、栞さんの安定した守備…一人ひとりが自然に支え合っている感じがありました。この経験が「空気を変えるプレー」の原点かもしれません。
青木:「あの1点」がチームのスイッチを入れたんですね。
山本:はい。そしてその日以降、仲間から「優花が自信持っていいプレーできてる」って自然に声がかかるようになったんです。私自身も、チームの空気を動かす存在になりたいと思うようになりました。

■「自分を取り戻す時間」──素顔を覗く日常と趣味
青木:オフの日って、どんなふうに過ごしてるんですか?
山本:基本的にはのんびり過ごしてます。音楽をかけながら部屋の掃除をしたり、近くのカフェでぼーっとしたり。あと、最近はノートを持ち歩いていて、練習の振り返りとか、思ったことを自由に書いています。
青木:ノートにはプレーのこと以外も書くんですか?
山本:書きます。というか、プレーと気持ちはセットだと思ってて。たとえば「今日は判断が遅れがちだった」「アップの時点で集中が弱かった」みたいに、できるだけ短く、主観と事実を並べるようにしてます。大谷翔平選手が毎日つけていた“行動の振り返りノート”の記事を読んで、真似してみようかなと思って始めたんです。
青木:ご自身の言葉で、自分を客観視していくんですね。
山本:そうですね。試合や練習って、あとから思い出そうとしても曖昧になることが多くて。だから、その場で記録しておくと、自分の小さな変化にも気づけるんです。
青木:それはもう、プロ意識と言っていい気がします。
山本:そんな立派なものじゃないけど(笑)、続けてるうちに「考えて動く」ことが習慣になってきた気はします。試合の日は特に、あえて“気持ちの準備”と“終わったあとの整理”のページを分けたりしてます。
青木:言葉にして残すことで、気持ちもリセットできると。
山本:はい。だからバレーと離れた時間にもノートを開くことがあります。「最近焦り気味だな」っていうときに、自分の思考パターンに気づけたりして。書くって、意外とすごいです!
■「届けたい、ありがとうの気持ち」──ファンの存在と支え
青木:SNSなどでファンの声が届く機会も多いと思いますが、どんなふうに受け取っていますか?
山本:めちゃくちゃうれしいです!特に、試合後の投稿に「今日のあの1本、見てて鳥肌立ちました!」ってコメントをもらったことがあって、それが本当に忘れられなくて。
青木:それは自分の手応えと一致した?
山本:まさにその通りで。「あの1本、よし!」って思ったときに、それがちゃんと伝わってたっていうのが、すごく励みになりました。自分の中だけで終わらなかった感覚。
青木:選手としてやってて一番報われる瞬間かもしれませんね。
山本:はい。見てくれてる人がいるって、本当に力になります。あと、全然知らない方から「今日は表情が良かったね」とか言ってもらえると、「細かいところまで見てくれてるんだなあ」ってじんわりします。
青木:SNSって、つながる場所として大事なんですね。
山本:はい、すごく大事です。言葉の力って本当にあって、画面越しでも伝わってくるんですよね。だから私も、発信するときは明るい気持ちや感謝を素直に届けられるように意識しています。
青木:ファンとの“キャッチボール”みたいですね。
山本:うん、ほんとに。プレーで返せたら一番いいんですけど、まずは言葉でもちゃんと届けたいなって思ってます。
■最後に──“空気を変える”ということ
青木:最後に、「空気を変えるプレー」ってご自身にとってどんな意味ですか?
山本:一言で言うと、“気づいて動ける人”であること、です。誰かが不安そうならちょっと先に声をかけるとか、沈んだ空気のときに少しだけ明るい雰囲気を作ってみるとか。
青木:それってプレーに限らないですよね。
山本:そうなんです。もちろんプレーで流れを変えられたら最高だけど、それだけじゃない。ベンチでも、移動のバスの中でも、「この空気、今ちょっと重いかも」って気づいて動く。そういう存在でありたいなって。
青木:それが“山本優香らしさ”なのかもしれませんね。
山本:だったらうれしいです。私、チームの中で「この人がいると安心する」って思ってもらえる選手になりたいんです。そう思ってもらえたら、私がこのチームにいる意味もある気がして。
青木:それはきっと、もうすでに叶っているんじゃないですか?
山本:(照れながら)どうでしょう。でも、そう言ってもらえるように、これからもちゃんと向き合って、積み重ねていきたいと思います!
支えてくれる仲間やファンへの感謝を胸に、ひとつひとつのプレーに意味を込めながら、“空気を変える存在”としての自分を磨き続ける山本優香選手。その明るさと、まっすぐに積み重ねてきた努力は、いま確かにチームに安心と推進力をもたらしています。
誰かの背中を押せるように。自分自身も楽しめるように。そんな彼女の姿勢が、今日もグリフィンズの空気をあたたかく照らしています。
▶ 次回は、抜群の対応力と芯の強さでチームを支える存在——高橋綾選手(Aya Takahashi)のインタビューをお届けします。
どうぞお楽しみに。