チームをつくるということ──
田中陽一監督が語る、翠嵐グリフィンズの哲学
聞き手:スタッフ・青木 / 話し手:田中陽一 監督

若き選手たちが中心となって戦うバレーボールチーム「翠嵐グリフィンズ」。 彼女たちを率いるのは、長年にわたりトップからジュニアまで幅広く指導してきた田中陽一監督だ。 選手たちの可能性を信じ、対話を重ねながらチームを育てるその姿勢は、選手たちにどのような変化をもたらしたのか。 創設1年目という節目を迎えた今、チーム作りの舞台裏と、そこにかける想いを聞いた。
■“教える”ではなく、“共に考える”
青木:チーム創設から約1年が経ちましたね。振り返って、今どんなお気持ちですか?
田中監督:まだ1年か、というのが正直なところですね。選手たちと過ごした時間が濃かったので。もちろん大変なことも多かったですが、それ以上に成長をそばで見られる喜びが大きかったです。
青木:立ち上げ時は、全員がほぼ初対面だったとか?
田中監督:ええ。しかも年齢もキャリアもバラバラで。それぞれがそれぞれの”正解”を持っていて、最初はプレーが全く噛み合わなかった。でも、それが逆に良かったんです。”答えは一つじゃない”という前提で、対話しながら形をつくる。まさに、共につくるチームです。

■若い力、それぞれの個性が光るチーム
青木:若手選手が多いチームですが、育成で意識していることは?
田中監督:うちは即戦力というより、これからを担う選手たちを育てるチームです。だからこそ、”失敗を許す空気”がすごく大事。失敗を怒るのではなく、そこから何を学べるかを一緒に考える。スタッフも選手も、”やってみよう”に寛容であるべきだと思っています。
青木:特に成長を感じる選手はいますか?
田中監督:たくさんいますよ。アウトサイドヒッターの宮本玲奈(Rina Miyamoto)は、チームを勢いづけるプレーが増えましたし、ブロッカーとしての高橋綾(Aya Takahashi)の読みの鋭さには驚かされています。リベロの藤井まどか(Madoka Fuji)は、どんな場面でも冷静に対応できる安心感がある。みんなそれぞれに個性と可能性を持っていて、それがチーム全体の厚みになっています。
青木:長谷川まりな選手(Marina Hasegawa)の存在も大きいようですね。
田中監督:彼女は本当に明るい選手で、チームの雰囲気を自然とよくしてくれるムードメーカーです。試合前の円陣や移動中でも、彼女の一言が場を和ませたり、笑いが起きたりする。プレーも堅実ですが、それ以上に“空気をつくる力”がある選手です。こういう選手が1人いるだけで、チーム全体が元気になるんですよ。
■指導において大切にしていること、そして原点
青木:監督のご経歴について伺います。どのような経験が、今のチームづくりに活きていると感じますか?
田中監督:私も学生時代まではバレーボールに打ち込んでいたのですが、あるとき膝を大きく負傷し、手術をしても競技復帰が叶わず、選手としての道を断念しました。当時は目の前が真っ暗で、何もかも失ったような気持ちになりました。
でも、その経験が今の自分を支えてくれていると感じています。怪我をして初めて、「プレーできることのありがたさ」や「仲間の声がどれだけ支えになるか」に気づいたんです。
青木:つまり、競技から離れた経験があるからこそ、プレーできること自体の価値や、仲間の存在の大きさに気づけたということですね?
田中監督:はい、まさにそうです。指導者として大切にしている“寄り添う姿勢”も、その原体験からきていると思います。選手はみんな、いつ壁にぶつかるかわからない。だからこそ、そのときに頼れる存在でいたいし、ただ技術を教えるだけでなく、心の面でも支えられるような関係を築いていきたいと思っています。
翠嵐グリフィンズでは、その姿勢をベースにしています。
一方で、選手に助けられてきた経験も多くあります。たとえば、ある練習試合の直前に、スタメン予定だったセッターが足を痛めてしまったことがありました。もちろんチームとしては大きな痛手でしたが、代わりに出場した若い選手が、想像以上のプレーを見せてくれた。彼女だけじゃなく、周りの選手たちも自然と声を掛け合ってカバーしていたんです。その光景を見て、「指導者として自分が信じるより先に、選手たちはすでに信じ合っていたんだ」と感じて、胸が熱くなりました。
だからこそ、今は「一緒に成長する関係性」を大事にしたいんです。

■チームが進む未来
青木:今後のチームに期待することは?
田中監督:まずは、バレーボールを楽しめるチームであり続けたい、というのが根底にあります。その上で、選手たちが自分の役割をしっかりと理解し、互いに信じ合えるチームでありたいと思っています。信頼関係があるからこそ、苦しい場面でも前を向けるし、一人のプレーがチーム全体の力になる。
さらに言えば、バレーボールという競技を通じて、選手たちが人としても成長できる環境を整えたいんです。試合での勝ち負けはもちろん大事ですが、それ以上に“このチームで過ごした時間が、人生の財産になった”と思ってもらえるような経験を届けたい。
そうしたチーム作りを続けながら、次のステップとして取り組みたいのが、地元へのさらなる貢献です。バレーボールを通して地域とつながり、もっと多くの人にその魅力を届けていければと思っています。
将来的には、地元の子どもたちや学生たちに向けたバレーボール教室や交流イベントを、これまで以上に充実させていきたいですね。翠嵐グリフィンズアカデミーでは、バレーボールを通じて“挑戦する心”や“仲間を信じる力”を育む活動を展開しており、次世代のリーダーを育てるために、技術指導だけでなく、チームワークやコミュニケーション能力を養う場を提供しています。
地域とつながりながら、グリフィンズを“みんなのチーム”にしていく。そして、彼女たちのプレーを見て、「自分も挑戦してみよう」と思ってくれる人が増えてくれたら嬉しいです。
そうやって、バレーボールの魅力を広げながら、選手と共に、応援してくださる皆さんと共に、未来をつくっていきたいと思っています。
青木:最後に、ファンの皆さんへ一言お願いします。
田中監督:選手たちは毎日、悩みながら、でも前向きに頑張っています。そんな姿を見て、少しでも勇気を持っていただけたら嬉しいです。そして、ぜひ会場で名前を呼んであげてください。彼女たちの力になります。それぞれの選手が、それぞれの役割で輝いています。ぜひ注目していただけたらと思います。
この1年で培った信頼関係と選手たちの成長が、翠嵐グリフィンズの確かな土台になりつつある。
▶ 次回は、選手インタビュー第一弾「宮本玲奈」をお届けします。お楽しみに。